MIDI:MIDIインプリメンテーション・チャートの見方
MIDIには様々なメッセージがありまが、 MIDI端子を装備したMIDI対応楽器がすべてのメッセージを正しく処理することを義務づけられているわけではありません。
MIDI楽器のマニュアルをみると、普通は最後のほうにいかにもユーザーに読んで欲しくないかのように
小さな字でその楽器が扱うことの出来るMIDIメッセージが解説されています。
そしてその最後のほうに下のような表が載っている場合があります。これはMIDIインプリメンテーション・チャート
と呼ばれるもので、MIDIメッセージの種別にその機器での使用可否が整理されています。
このチャートの見方がわかれば、これをみるだけでその楽器が外部からどのようにコントロールできるか、 と、その楽器を使用して外部のMIDI機器に対してどのようなコントロールができるか、 を把握できます。
ここに示したチャートをみると送信のところ(2つ目の列−縦軸−)がほとんど×になっていて、 MIDIメッセージを出力する機能をほとんど持っていないことがわかります。 実はこれは鍵盤を持たないMIDI音源モジュールのMIDIインプリメンテーション・チャートです(Roland SC-88VL)。 鍵盤を備えた普通のシンセサイザーならば送信のところの殆どに○が付きます。 そしてDTM打ち込み専用の音源を持たないキーボードの場合は受信のところ(3つ目の列−縦軸−)がほとんど×になります。
それではこのチャートをサンプルにして上から1行(横軸)ずつクローズアップして、その行の意味するところと、 そこからなにがわかるのかを順次に解説していきます。 なお、表の構成や表現はメーカによって若干の違いがあることを覚えておきましょう。 以下、各項目ごとに解説しますが、このページはビギナー向けを旨とするので面倒なことは割愛してあります。
■ベーシック・チャンネル - Basic Channel -
この部分から分かる情報はあまり多くありません。送信および受信は”×”または”1ー16”のいずれかが記載されているのが普通です。
ここで注意したいのは受信欄に”1ー16”と書いてあるからといって、 MIDIチャンネル1番から16番までのMIDIメッセージ(チャンネルメッセージ)を同時に独立して扱うことを示しているわけではない、 ということです。 同時に扱うことのできるパート数(ティンバー数)が16個のMIDI音源の場合も8個のシンセサイザーの場合も、 受信/送信MIDIチャンネルを1から16まで自由に設定できるものはすべて”1ー16”のような記載になります。
鍵盤を持たないMIDI音源モジュールでは一般に送信部分が×になり、ベーシック・チャンネルより下の殆どの項目が×になります。 これとは逆に音源を持たない打ち込み専用のMIDIキーボードの場合は一般に受信部分が×になります。
■モード - Mode -
この部分を説明するにはMIDI機器の動作モード、すなわち オムニ・オン/オフとポリモード・オン/オフが何かを説明しなくてはなりませんが、 これについては最後に説明します。
現在のMIDI機器は普通は電源投入時の動作モードは”モード3”となります。 モード3とはおおざっぱにいうと”受信チャンネルに設定したチャンネルと合致するMIDIメッセージが入ってきた場合に動作し、 和音演奏が可能”という動作モードで、MIDIファイル等の演奏データを再生する場合に適したモ−ドです。
■ノート・ナンバー - Note Number -
ノート・ナンバーとはMIDI規格によって定められている半音ごとに付番された番号のことで、 MIDIインプリメンテーション・チャートで”ノート・ナンバー”の行に記載されているのは送信および受信することのできノート・ナンバーの範囲が記載されています。 扱うことの出来ない場合は×と記載されます。
モジュール・タイプのシンセサイザーの場合は鍵盤が無いので送信欄が×となります。 ただし、モジュール・タイプでもシーケンサー(自動演奏機能)を内蔵し、 MIDIアウト端子を通して外部のMIDI音源を鳴らすことのできる機種は普通”送信”部分も"0-127”となります。
送信欄に記載されているノート・ナンバーの範囲は鍵盤数とは必ずしも一致しません。 例えば61鍵タイプの鍵盤を備えたシンセサイザーの場合、 鍵盤の範囲を変更できるものはカバーできる最大の範囲のノート・ナンバーが送信欄に記載されます。 鍵盤数が61鍵で看板の範囲を上下1オクターブの範囲で変更できる機種の送信欄は"24-108"となります。
■ベロシティ - Velocity -
強く鍵盤を弾くと音が大きく、弱く弾くと小さい音でなるような機能(タッチ・レスポンス、タッチセンサー)をもった鍵盤を装備したシンセサイザー(MIDIキーボード) の場合にノート・オンの送信欄が○になります。
ただし、いくら鍵盤に強弱を送信する機能があっても、使用する音源に強弱を受信する機能がなければ意味がありません。 受信欄はMIDIインからは入ってきたノート・オン(「今、鍵盤を弾いたよ」というMIDIメッセージ) 情報に含まれている強弱情報を扱うことが出来るか否かを示しています。ベロシティはイニシャル・タッチとも呼ばれます。
ノート・オフは鍵盤指を放したときの速さの情報(ノート・オフ・メッセージの中にあります)を扱うことが可能か否かが記載されていますが、 これを扱うことの出来る機種はあまり多くありません。 ノート・オフ・ベロシティを扱うことのできる機種では、鍵盤から素早く指を離したときの余韻を短く、ゆっくり放した場合は長くリリースするような音作りが可能となります。
なお、音色のプログラミングよってはベロシティ情報を音量の大小ではなく、例えば異なる音色を鳴らすような制御に用いられている場合があります。
■アフタータッチ - After Touch -
鍵盤によっては弾いたとき(イニシャル・タッチ)の強さ(押下の早さ)を検出できるのに加えて、 鍵盤を押下したままの状態でさらに強く押した(アフター・タッチ)ときにその強さの情報を検出することのできるものがあります。 アフタータッチ量をビブラートにアサインすることによって、強く押したときにビブラートをかけることが可能になります。
MIDIインプリメンテーション・チャートのアフタータッチの項はこれを送受信することができる機種であるか否かを示しています。
アフタータッチには2種類あります。一つは強く押下した鍵の音のみに影響(ビブラートとかの)を与えるもの(キー別)と、 もう一つは発音中の同じMIDIチャンネルの音すべてに影響を与える(チャンネル別)ものです。
後者はチャンネル・プレッシャーというMIDIメッセージで情報伝達が行われます。 前者はポリフォニック・キー・プレッシャーというMIDIメッセージで情報伝達が行われますが、 これを検出し送信できる鍵盤を備えた機種はあまり多くありません (エンソニックというメーカーのシンセサイザー/サンプラーが伝統的にこれが可能な機種を製造しています)。
なお、アフター・タッチの効果としてビブラートを例に上げましたが、 ちゃんとした音作りができるシンセサイザーではアフター・タッチの効果を様々なもの(ビブラート、音量、フィルターの開き具合等)に 自由にアサインすることができます。
■ピッチ・ベンド - Pitch Bend -
MIDIインプリメンテーション・チャートのピッチ・ベンドの項は音程を滑らかに上下させる(ギターでいうチョーキングとかトレモロ・アームを使ったような) 効果を伝達するMIDIメッセージを送受信できるか否かを示しています。
ピッチ・ベンドの受信は音源を持つかぎりほとんどの機種が○となるくらいあたりまえなものです。 ピッチ・ベンドはピッチ・ホイール(ジョイスティック・タイプのものもあります)がスイッチとなるため、 これを備えたキーボードの場合に送信が○となります。
■コントロール・チェンジ - Control Change -
MIDIメッセージにはコントロール・チェンジとよばれるメッセージがあります。 このコントロール・チェンジはコントロール番号とパラメータで構成されていて、 コントロール番号によってパラメータの作用する機能が決まります。
コントール番号は 0番から127番まであり、 図にあるような一般的なものに関してはどのような機種であってもコントロール番号と対応する機能は統一されていますが、 コントロール番号に該当する機能のすべてが MIDI規格で定められているわけではありません。 空き番号をメーカが独自に特定の機能のために使用している場合があります。
そのために、そのMIDI機器がどのコントロール番号ごとにそれをどのような目的で使用しているかを示すためにMIDIインプイリメントチャートにコントロール・チェンジの項があるわけです。
■プログラム・チェンジ - Program Change -
プログラム・チェンジとは、作成(合成)済みで、いつでも呼び出し可能になっている音色を音色番号を指定して切り替えるためのMIDIメッセージです。
拡張子.midのファイルを演奏したときにピアノやベースなどの音が鳴るのは、 演奏データの前にそのデータに適したプログラム・チェンジが挿入されているためです。 従って、インプリメントチャート上でプログラム・チェンジの受信が×になっているシンセサイザーあるいはMIDI音源を使用した場合は 適切な音色には自動的に切り替わりません(受信が×のMIDI機器はほとんどありませが....)。
一般的に、鍵盤付きのシンセサイザーの場合は送信も○になります。 プログラム・チェンジは演奏する音色を選んだときに、音色が切り替わると同時にMIDI OUTからも送信されます。 あなたの手元にあるシンセサイザーと、音を重ねて演奏したい別のシンセサイザーの音色を連動してきり変える場合に使用するのが プログラム・チェンジの本来の目的です。
"0-127"というのは音色番号(Program number)を0番から127番まで受信(あるいは送信)可能であることを示しています。 0〜127はMIDIメッセージ・フォーマット上の最大の範囲です。現在のMIDI機器では最大範囲を扱えるのが普通ですが、 MIDI規格創成期のシンセサイザーは32とか64通り程度の音色しか記憶することが出来なかったために、範囲の表記には意味がありました。
また、シンセサイザー(MIDI音源)の音色番号は1番からはじまっているものと0番からはじまっているものがあり、 この関係で、音色番号が1つずつずれて扱われてしまう場合があります。
余談ですが重要なことをプログラム・チェンジでの音色切り換えは、あくまでも音色番号によるもので、 「ピアノに切換える」のように、楽器音を指定して切換えるものではありません。 どの音色番号にどんな音色が保存されているかは無関係です。 ピアノの音に切換えたくてプログラム・チェンジで1番を演奏データの前に挿入しても、 MIDIファイルを鳴らすシンセサイザーの1番の音色バンクにストリングスが保管されていれば、弦の音で鳴ってしまいます。 この辺の互換性を保つためにGM,GSやXG規格では音色番号ごとの楽器音が統一されています(すべてではありません)。 また、GM,GSやXG規格ではMIDIチャンネル10番だけはドラム/パーカッション専用となっているため、 ピアノやベースには切換えられないことも覚えておきましょう。
■エクスクルーシブ - System Exclusive -
(システム)エクスクルーシブとはMIDI音源モジュールなどの特定のパートを制御するのではなく、 機器の状態等を制御するためのシステム・メッセージのことで、 インプリメンテーション・チャートの「エクスクルーシブ」では、 このシステム・エクスクルーシブ・メッセージの送受信可否を示します。
このインプリメンテーション・チャートの例では送信も○になっています。 多くのシンセサイザーならびにMIDI音源では、機器設定の状態をまるごと保存したり、 別の同一機器に転送する機能を持ってるために送信も○になります。
■コモン - System Common -
MIDIメッセージの分類の中のシステム・メッセージには、 前述したエクスクルーシブ・メッセージのほかにコモン・メッセージとリアルタイム・メッセージ(後述)という種類があります。 コモンとはコモン・メッセージを指します。
このインプリメンテーション・チャートでは”ソングポジション”、”ソング・セレクト”、”チューン・リクエスト”の3つが記載されていますが、 コモン・メッセージにはこの他にも種類があります。
この3つのコモン・メッセージは一般的なDTMユーザーにはほとんど無関係なものです。
【ソングポジションとソング・セレクト】
この二つの送受信が○となりうるのはシーケンサー(自動演奏機能)を内蔵したキーボード(モジュールタイプの場合もあります)の場合です。 シーケンサーを内蔵したキーボードを複数同期して自動演奏させたい場合にマスターとなるキーボードを曲の途中から演奏するしたいときに、 マスター側はソングポジションの送信が○、そしてスレーブ側は受信が○になっていなければ、スレーブ側は途中からの自動演奏を開始しません。
シーケンサーを内蔵したキーボードの多くは複数の曲を記憶することが出来ますが、 ソング・セレクトはマスターとなるキーボードの曲を別の曲に切換えたときに、連動してスレーブ側の曲も切換えるときに有効なものです。 要するにプログラム・チェンジのソング切換版です。
【チューン・リクエスト】
昔のアナログ・シンセサイザーは電源投入後しばらくして暖まってくるとチューニングがずれるものでした。 そのために自動チューニング機能を持った機種がありました。 チューン・リクエストとは外部のMIDI機器から自動チューニングの開始を要求するためのMIDIメッセージです。 仮にDTMシステムのなかに自動チューニング機能を持つアナログ・シンセサイザーがつながっていたとしても、 チューニングの開始をMIDIシーケンスデータに埋め込む必要など無いので、 チューン・リクエストの送受信可否はDTMにとってはどうでも良いことだと考えます。
■リアルタイム - System Real Time -
一つ前の”コモン”で説明した通り、”リアルタイム”はシステム・メッセージの一つで、”リアルタイム・メッセージ”を指しています。 似たものに”リアルタイム・ユニバーサル・エクスクルーシブ”というのがありますが、それとは違います。
インプリメンテーション上の”リアルタイム”には、外部のシーケンサー(単体シーケンサー、キーボードに内蔵型シーケンサ−あるいはPC+シーケンスソフト) と同期走行するためのMIDIメッセージについて送受信が記載されています。 したがって、コモンの【ソングポジションとソング・セレクト】と同様に基本的には二つの送受信が○となりうるのはシーケンサー(自動演奏機能) を内蔵したキーボード(モジュールタイプの場合もあります)の場合です。
なお、ここでいう同期走行とは絶対時間を基準にするものではなく、 持った簡易なもの、すなわちタイミング・クロックによる同期のことです。
【クロック(タイミング・クロック/MIDIクロック)】
同期走行には、絶対時間情報をもとにして各々のシーケンサのマスタートラック上のテンポ情報に基づいて走行するタイプと マスタートラック上のテンポ情報を無視して、外部から送信されてくるタイミング情報に追従するタイプがあります。 ”クロック”は後者のタイミング情報にあたります。4分音符あたり24の分解能で、クロックを24個受け取るとソング位置が4分音符分進むことになります。 現在では前者の方、すなわちMIDIタイムコードにとよる同期が主流であると考えますが、オート・アルペジオ(アルペジエータ)など、 絶対的なソング位置の関係ないものの場合には”クロック”を意識する必要のある場合もあると思います。
【コマンド】
リアルタイム・メッセージにはクロックのほかに、スタート、コンティニュー、ストップ、アクティブ・センシンング、システム・リセット等がありますが、 最後の2つは、このインプリメンテーション・チャートでは”その他”に書かれています。 ここ書かれているコマンドとは最初の3つ、すなわちにスタート、コンティニュー、ストップのことを指している、 と解釈して良いと思います。 スタートとは外部シーケンサーに対する曲の頭からの演奏スタート・コマンドの送受信、コンティニューとは現在停止している位置からのスタート、 ストップは演奏のストップのコマンドの送受信を指しています。
■その他
【オール・サウンド・オフ/オール・ノート・オフ】
ノート・オンを受信して発音中の音の全てに対してノート・オフを受信した状態にするためのメッセージです。
多くの場合、何らかのトラブルによって、ノート・オフをロストした場合のリセットとして使用されます。 MIDI対応鍵盤には、MIDIケーブル断線などによる音の鳴りっぱなしを解消するための”パニック” スイッチが装備されている場合がありますが、その場合はオール・ノート・オフの送信が○となります。
シーケンスソフトの中にもパニック解消用のリセット機能を持つものがありますが、 オール・ノート・オフの受信が×のMIDI機器の場合は正しく機能しないことになります。
これに対して、オール・サウンド・オフは、ノート・オフを受信状態にするわけではなく、 単に消音するだけのものです。
MIDI規格上では通常演奏のノート・オフの代用としてのオール・サウンド・オフまたはオール・ノート・オフを使用することを推奨していません。
【リセット・オール・コントローラ】
これはオール・ノート・オフのコントローラ(ビッチベンド、モジュレーションなど)版です。
【ローカルON/OFF】
これはローカル・キーボードON/OFFのことです。 ローカルキーボードとは「そのMIDI機器に装備されている演奏用鍵盤」のことで、 MIDI対応キーボードの多くは、内部的にキーボードから自分の音源部を切り離すことが出来るようになっています。
もちろん、演奏用鍵盤を装備しないDTM用音源モジュールは受信が×になります。
【アクティブ・センシング】
アクティブ・センシングとは MIDIケーブルの断線が生じた場合に一定時間経過すると発音中の音をリセットするなどの コントロールを行うために用意されているものです。このメッセージの扱いはMIDI機器によって違いますが、 たとえばローランドSC-88VLではアクティブ・センシングを一回受信した場合にはじめて断線監視状態に入り、 420ミリ秒(ヤマハMU80の場合は300ミリ)以上待ってもまってもアクティブ・センシングが来ない場合に断線とみなし、 発音を中止する、とマニュアルに書かれています。
【システム・リセット】
システム・リセットはMIDI機器を電源ONにした状態にリセットするためのものですが、 何をリセットするかはMIDI機器側の仕様に依存します。
MIDI規格ではシステム・リセットをむやみに使用することを推奨していないようです。
■モード1,2,3,4
オムニON/OFFとは、MIDIチャンネル番号を無視する(オムニON)か、 チャンネル番号が合致する場合のみ動作する(オムニOFF)を示すものです。 一台の鍵盤付きシンセサイザーを演奏することによって、 MIDI接続された別の複数のMIDI音源を、常に同時に重ねて鳴らすだけならば、MIDIチャンネルは何でも良いため、 それならいっそのことチャンネル番号は無視してしまえ、というものです。
ポリ・モードとは和音演奏が可能なモードで、モノ・モードは単音演奏モードです。
あまり説明するとかえって混乱を招くことになるので割愛しますが、DTMユーザーは次の2つを覚えておけば 十分でしょう。
- モード3(オムニOFF、ポリモード):通常のDTM音源用の設定はこのモード
- モード4(オムニOFF、モノモード):MIDIギターコントローラを使う場合はこのモードが一般的